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チェチェンニュース
Vol.01 No.24 2001.10.02

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■和平交渉をめぐる奇妙な応酬/9/28

9月24日、ロシアのプーチン大統領はテレビ放送の中で、チェチェン独立派との和平対話の前提条件として、「72時間以内の武装解除」を求める呼びかけをおこなった。これに対し、チェチェンのマスハドフ大統領はスポークスマンを通し、次のように声明した。「プーチン大統領の声明は、この戦争の開始から2年を迎える直前 になって、ロシア軍の進攻失敗と政府の無策を無理に解決しようとしているにすぎない」(AFP、9/25)

しかしその日遅くにAFPが伝えたところでは、マスハドフ大統領は意見を変えた。「私が考えるに、ロシア大統領の新しい提案は、可能な限り早く軍事行動を停止して、数世紀にわたってチェチェンとロシアの間に積み重なっていた矛盾を整理する現実的な機会なのかもしれない」(AFP、9/25)続いて9月26日、マスハドフ大統領は、交渉の準備段階として、チェチェン側の交渉担当者の候補を挙げた。チェチェン政府でマスハドフ大統領に次ぐ、アフマド・ザカーエフ氏である。ロシア側に対しては、連邦政府の南ロシアにおける代表のビクトル・カザンツェフ氏を代表にすることを求めた。(AFP、9/25)

チェチェン側から指名を受けた、カザンツェフ氏は、インターファックス通信の取材に次のように応じた。「われわれは対話には応じる。しかし前提条件や、仲介などの入るものではない。われわれは状況の平常化のために話し合うべきだが、それは武装が解除されたあとの話だ」(AFP、9/26)

ここで伝えられているカザンツェフ氏の発言には矛盾があるが、もともとプーチンの発言から始まったこの不思議な問答の中で、ロシア側は一貫して「交渉」という語を使うことを避けている。チェチェン側から見れば、敗北を繰り返しているロシア側からの武装解除要求に応じる意味は特にないが、一方で交渉の機会を葬った場合、チェチェンへの国際的な評価は下がる可能性がある。(発行人)

■プーチン大統領発言へのロシア国内の反応/AFP バーナード・ベッサーグリック、9/25

ロシアのプーチン大統領の「72時間以内に武装解除、その後和平対話」との提案は、ロシア国内でも非現実的な提案と受け止められているようだ。

「これは対話の提案ではなく、チェチェンの独立派を投降させたいための発言だ」と、軍事評論家のパーヴェル・フェリケンガウズル氏は記者に語った。また、人権NGO「メモリアル」のタチアナ・カサツキーナ女史は、「この提案は現実性に乏しく、評価に値しない」とコメントした。

ロシアのメディアも同様の意見である。イズベスチア紙は、ロシア政府がチェチェンの「名誉ある降伏」を演出しようとしていると、若干の皮肉を含めて評価した。経済紙コメルサント・デイリーは、プーチン大統領の提案を、「国際世論の後押しもないままに、たった72時間の間にチェチェンで行動を起こそうとしている」ことの現れだと見なしている。

先のフェリケンガウズル氏の観測では、ロシア政府は当然、同時多発テロによるアメリカの対アフガニスタン作戦と関連付けて、チェチェンで新たな作戦の実行を考えるはずだが、「私自身はそう大きな変化は起こりようがないと思っている」と付け加えた。

フェリケンガウズル氏の意見はこうだ。「アメリカによる対テロリスト作戦の勢いと同調して、プーチンはチェチェン人との対話を開始するときだと判断した...。国際政治的な観点からすると、彼は以前より強い立場になったとも言える。しかし実際には戦争の様相はそう大きく動くものでもないのだ。二つの戦争を同時に戦うことを考えれば、アフガニスタンの状況は、プーチン大統領にとっては『災難』だ。彼は今、強いプレッシャーを感じている。今回の無意味な呼びかけは、そういうフラストレーションの結果にすぎない」

今週の初めまで、プーチン大統領はマスハドフやバサーエフといった、チェチェンの独立派との対話の可能性を排除しつづけていた。また、ロシア政府はチェチェンの暴動にイスラム系軍事組織との関係があるとして、抵抗勢力を「テロリスト」と呼び続けた。そのテロリストが、アメリカの同時多発テロに関与しているとされるオサマ・ビン・ラディンによって訓練され、支援されているというのである。

今年の初め、ロシア政府は8万人規模の強力なロシア軍により、チェチェンの状況は平常化されたと宣言した。しかしロシア軍の撤退の話題は、軍がレジスタンスの強力な抵抗に遭遇しはじめたことですぐに消えた。94年から96年の間の第一次戦争によく似た展開になってきていることで、最近の世論調査結果では、急速に厭戦的な層が増え始めている。

■戦闘状況/グラスノスチ財団、9/26

9月24日、スタール・イタギにてロシア軍の装甲車が地雷を踏み、兵士4人が負傷した。グロズヌイのザボドスコイ地区では、警察の一部隊が待ち伏せされ、グレネードと機関銃の攻撃を受けた。これにより警察官1名が負傷。ヴェデノのノジ−ユルトのロシア軍拠点では、Mi-24型ヘリコプターがレジスタンスの攻撃を受けた。

■戦闘状況/グラスノスチ財団、9/30

9月28日、チェチェンでの戦闘により、警察と内務省軍あわせて28人が死亡した。攻撃は6回にわたった。チェチェンでの民間の道路使用は全土で停止され、検問所での検査は非常に厳しくなっている。28日の夜、チェチェンのレジスタンス側の大規模な部隊が動き、グロズヌイ、アルグン、シャリ、クチャロイ、ヴェデノでの攻撃が行われた。他に戦闘のあった地域はセルゲン-ユルト、アタギなど。

■チェチェンとロシア対話の始まり/グラスノスチ財団、9/30

ロシアのセルゲイ・ヤストルゼムスキー大統領報道官は、チェチェン独立派でマスハドフ大統領に次ぐ位置にあるアフマド・ザカーエフ氏との交渉の可能性について言及し、「連邦中央と交渉する意味のある相手」であると認めた上で、「ザカーエフは経験豊かな政治家であり、特に犯罪にも手を染めていない」との見方を明らかにした。ザカーエフ氏はこれに対して、すでにプーチン大統領の南ロシア地方における代表と伝えられるビクトル・カザンツェフ氏との交渉に入っていることを明らかにした。同時にザカーエフ氏は、この動きがプーチン大統領の肝入りであることをほのめかした。

政商といわれるボリス・ベレゾフスキー氏は、「チェチェンのマスハドフ大統領がこの第二次戦争を引き起こした」と断言している。他方ではベレゾフスキー氏自身がザカーエフ氏とコンタクトを取り始めたとも報道されている。ベレゾフスキー氏は、「こういった対話は、ロシア軍が勝利できないことが明らかである以上、当然必要になるのだ」とコメントしている。

一方、チェチェンにおける親ロシア政権の首長カディーロフ氏は、独立派との間に交渉の余地のないことを主張している。「この流血の惨事を招いたのはマスハドフだ。彼がチェチェンに戻る(正当政権になる)ことは許されない。なぜなら彼は我々の政府関係者の多くをせん滅する指令を出している。シャリア(イスラム法廷)は彼とその家族を流血のかどで非難し、すべてのチェチェン人も、彼が生き延びることを許さない」と、独立派のマスハドフ大統領自身を強く非難した。

■編集室より <言葉の戦争>

このところのチェチェン情勢は、チェチェン独立派による大攻勢と、ロシア政府とチェチェン側の対話の開始という、矛盾した状況である。同時多発テロ以来、「国際テロリズムの脅威に対抗する」といった名目で強まると思われたロシア政府のチェチェンへの抑圧はかえってなりをひそめているようだ。

しかしチェチェン内では大規模な空爆が実行されたとの未確認情報も流れ、実際の戦闘の様子は、ロシアのNGOからの情報をたよりに推測するしかないのが現状。

チェチェンを巡る国際環境に目を転じると、同時多発テロをきっかけとする米国、ロシア、アフガニスタン、パキスタンなど、各国政府の間で交される非難の応酬と宣伝が大量に新聞に流され、さながら「言葉の戦争」である。この戦争の回転は早く、声の大きな者が勝つ。

戦争をそのような局面から引きもどしたいと、発行人は素朴に思う。政治家の言葉よりも、抑圧されている人々の言葉を伝えることができなければ、チェチェンニュースの意味は少ない。

なお、明日10月3日、緊急報告会として、日本山妙法寺の寺沢潤世上人をお招きし、報告会「チェチェンをめぐる欧州の国際環境」を開きます。お誘い合わせの上おこしください。案内はもう一通のメールにて。(発行人)

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