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チェチェンニュース Vol.03 No.37 2003.10.15

発行部数:988部

■子どもの瞳に映るもの―――「金色の雲は宿った」を巡って

(2003.10.15 大富亮/チェチェンニュース)

長い準備期間をへて、ようやく今週の土曜、チェチェン問題を扱った映画『金 色の雲は宿った』が上映される。日本では、まだ2回しか上映されたことのな い映画だ。

ちょうど1年前の10月23日、モスクワ中心部のドブロフカ文化センターで のミュージカル「ノルド・オスト」の上演中、突然、黒いマスクをした武装集 団が舞台に現れ、演劇を中断した。モスクワ劇場占拠事件である。若干24歳 の指揮官モフサル・バラーエフに率いられたゲリラたちは、「チェチェンに対 する戦争の中止、ロシア軍の即時撤退」を要求した。さまざまな交渉の甲斐な く、3日間のろう城のすえ、結局ゲリラの36人全員が始末され、ロシア人を 中心とする約150人の人質がロシア側特殊部隊の使用した毒ガスによって殺 害された。チェチェンという、ほとんど知られていない小国で起こっている事 態に、一時ではあるが、世界の耳目が集まった。

『金色の雲は宿った』は、このチェチェン戦争の前史に位置付けられる映画だ。 舞台は、1944年、第二次世界大戦もたけなわのロシア南部、チェチェン共 和国である。物語は、孤児たちを乗せた汽車が、モスクワからコーカサス山脈 のふもとに向かう場面から始まる。長く続いたドイツとの戦争のために、街は 浮浪児であふれていた。物語の主人公である双子の兄弟サーシカとコーリカも、 空腹を満たすため、映画の冒頭ではさっそく市場のおばさんから食い物を盗ん で追いかけられたりしている。

兄弟のたどりついた果樹の国、チェチェンは奇妙な場所だった。家々はあり、 畑には作物が実っているが、それを手入れしていた人がいない。この国のジャ ム工場で働くことになった子どもたちは、たちまち奇妙な方法を考え出してジャ ムを盗み、飢えをごまかす。学芸会の夜のこと、教室の歓声をよそに、孤児院 長と工場の職員たちは、子どもたちの宿舎にそっと入り、目星をつけた床板を ひっぺがすと、彼らの足元には、まるで暗い池の底にちらばった何十枚もの金 貨のように、盗まれたジャム瓶の蓋がひしめいていた。そんな貧しい、しかし どこか愉快な日々に、兄弟は美しい教師、レギーナ・ペトロブナという保護者 にも恵まれた。

その幸せは長く続かない。対ドイツ戦線からは遠く離れているにもかかわらず、 山からは砲声が聞こえ、ゲリラたちがロシア軍との戦闘を続けていた。主のい ない収穫物、それは突然、スターリンによって遠い土地へ強制移住させられた、 チェチェン人の作物だったのである。戦闘にまきこまれたサーシカは、怒りに 我を忘れたチェチェン戦士に虐殺される。孤児院は襲撃を受けてもぬけの空に なっており、コーリカは兄とレギーナ先生を両方とも失った。同じように仲間 からはぐれたチェチェンの少年、アルフズールと出会い、義兄弟の契りを結ぶ のだが・・・。

ソビエト時代のスローガンでもあった「諸民族の協和」を、本当の意味のある ものにすること。サーシカとコーリカ、そしてチェチェン人アルフズールは、 知らず知らずのうちに、この理想を強く訴えかける。しかし、右手に「諸民族 の協和」を掲げ、左手からは民族虐殺につながる強制移住という政策が差し出 されたのが、60年前の悲劇だった。今もチェチェンでは、94年以来、「テ ロの根絶と治安の回復」という掛け声のもとに、10万から20万人の民間人 がロシア軍によって殺害されており、事態はなお進んでいる。

裏切られつづけた「諸民族の協和」がそうだったように、権力が暴力を覆い隠 すために、表面的には正当な言葉が叫ばれる。たとえば、「テロとの戦い」と いう言葉に翻弄される、アフガン、イラク、アチェ。メディアを通じてそんな 言葉が繰り返されるうち、民である私たちは、その言葉の持つ本来の意味を、 いつも取り違えてしまうようなのだ。将来のある若い男女がモスクワの市中で 凶行に走って無残に死んでいったのにもかかわらず、いまだその意味を理解で きずにいるのは、その結果ではないだろうか。

チェチェン人の強制移住を背景としたこの映画は、ある意味で、いまだに結末 にいたっていない。人口わずか70万のチェチェン。サーシカやコーリカのよう なロシア系の子どもたちや、無数のアルフズールが、ロシア軍の侵略の下で、 死と隣り合せに生きている。「金色の雲は宿った」という美しい佳作が、「美 しい理想」という言葉のうちに窒息死する前に、このフィルムは、多くの若者 の眼に映じられるべきだと思う。

この記事は、月刊あれこれ10月号に掲載されました。
http://www.arekore.co.jp/

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『金色の雲は宿った』〜チェチェン紛争の背景〜
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ぼくたちの新しい大地。そこは、「空っぽ」のコーカサスだった。

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