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チェチェンニュース Vol.04 No.03 2004.02.09

発行部数:1033部

■モスクワ地下鉄爆破事件の背景にあるもの
(大富亮/チェチェンニュース)

●死者100人説も

 なんという、ひどい事件だろうか。6日朝、モスクワの地下鉄アフトザボツカヤ駅近くのトンネル内で列車が爆破された。事件は朝のラッシュ時に発生し、公式発表は犠牲者39人としているが、最終的な死者は100人にのぼる可能性(8日、読売)もある。

 プーチン大統領は、ただちにチェチェン独立派が関与していると断定し、「テロリスト」であるチェチェン側との対話には応じないと明言した。さらに「事件とマスハドフ派の関連を証明するいかなる間接的な証拠もいらない」(7日、毎日)と述べた。一方、チェチェンのマスハドフ大統領は、スポークスマンを通じ、「事件はロシアの特務機関によるものだ。チェチェン政府はまったく関与しておらず、市民に対する武力行使には反対する」と発言した。

●権力の継ぎ目に、チェチェン

 テロリズムと、ロシアの政治日程は切り離せない。たとえば、99年8月から9月にかけて、集合住宅の爆破事件が5件続いた。ロシア政府はチェチェン人の犯行と断定し、9月にチェチェン空爆を開始したが、犯行声明はどこからも出なかった。当時首相だったプーチンはこの強硬策によって国民の支持を得て、翌年5月には大統領となった。

 もう一つのケースは、昨年12月5日にチェチェンに隣接するスタブロポリ地方で列車が爆破され、40人弱が死亡したもの。3日後の8日に行われたロシア議会選では、与党側が圧倒的な勝利を収め、チェチェンとの交渉を提案していたヤブリンスキーらは議席をすべて失った。その直後の9日午前にも、モスクワのロシア下院近くで爆破事件があり、5人が死亡した。選挙前後の事件は、マスハドフの陣営を離れたチェチェン人の野戦司令官、シャミーリ・バサーエフが犯行を声明した。

 もちろん、地下鉄の事件と対照するのは、来月14日にせまったロシア大統領選挙だ。「(テロは)権力基盤をジワジワとむしばむ疫病に等しい」(7日、読売)という意見もあるが、こういう事件が起こることで、プーチンの権威が低下するものだろうか。むしろ、対チェチェンの警戒心にとらわれているロシア社会にとって、プーチンのような「強い政治家」をトップに据えなければならないと感じる有権者が圧倒的なはずである。それはチェチェン人にも当然わかっている。

●事件の前後の文脈  

 地下鉄の爆破の前の1月18日、欧州議会のオリバー・デュプイ議員(国際ラジカル党)が、チェチェンのためのハンガーストライキを開始した。その要求は、マスハドフとアフマドフ外相がかねて提示しているチェチェン側の和平提案、「アフマドフプラン」を、EUが推進することである。アフマドフプランの要諦は、チェチェンに国連暫定行政府を設置し、ロシア軍の撤退とチェチェン独立派の武装解除を同時に行い、対立の解消に近づけることだ。

 ここしばらく、ロシア政府はチェチェン情勢の「チェチェン化」という政策をすすめていた。昨年3月のチェチェン国民投票と10月の大統領選挙がこれにあたる。現地情勢の管理を、親ロシアのチェチェン人に任せるというものであり、その意味するところはチェチェン人同士の内戦化である。おそらく、プーチンをはじめ、連邦中央はチェチェンの自滅を狙い、ロシア軍を撤退させがっていた。だが、軍部や軍産複合体にとって、チェチェン戦争にはさまざまな旨みがある。

 デュプイ議員が命をかけて訴えた結果、2月4日、欧州議会の議員624人中145人が、アフマドフプランに賛成の署名をし、世界に報道された。暴力の継続を望む立場からは、生まれかけた平和的解決の芽を吹き飛ばす必要があった。事故の可能性を別にすれば、地下鉄爆破の犯人がチェチェンの過激派であれ、ロシア側特務機関であれ、戦争の継続を利益にしている者だとは言える。

●プーチンのストレス

 もうひとつ気になるニュースは、ルイプキンの行方不明だ。地下鉄での事件の直前の5日、ロシアの元安全保障会議書記、イワン・ルイプキンが忽然と姿を消し、家族とも連絡が絶えている。ルイプキンはこれまでもチェチェンとの和平交渉を主張しており、スイスでチェチェンのアフメド・ザカーエフ副首相との和平会談も開いていた。また、今回の大統領選挙にも出馬を表明しており、大統領候補者の行方不明という、ちょっと信じられない事態が発生している。4日が経過した現在も何も手がかりがなく、報道もほとんどない。モスクワでは、いろいろなことが起こりすぎている。

 筆者は、プーチン大統領が事件直後に「チェチェンとの交渉はしない」と強調しなければならなかったこと自体に関心が湧いている。記者会見でチェチェン寄りの発言を発した仏紙記者に「(イスラム教徒同様に)割礼してはどうか」と暴言を吐くなど(7日、読売)、チェチェン問題に過敏なプーチンにとってのストレス源は、ヨーロッパで力を得つつある国連介入論、交渉を題目にする政治家ルイプキンの立候補、そして「チェチェン化」の難航と、自国の軍部・特務機関の跳梁である。


強い大統領を望むロシア世論:
http://www.interfax.ru/e/B/0/28.html?id_issue=8182506

ルイプキン行方不明:
http://www.sacbee.com/24hour/world/story/1141906p-7954162c.html

アフマドフプラン(チェチェン外務省サイト):
http://www.chechnya-mfa.info/

アフマドフプランへの賛同署名(日本人でもできます。ぜひ):
http://www.radicalparty.org/chechnya_appeal/form.php?lang=en

オリバー・デュプイ議員の声明:
http://www.radicalparty.org/chechnya_appeal/dup_hungerstrike_en.php

ロシア特務機関を疑うリトビネンコ:
http://groups.msn.com/ChechenWatch/general.msnw?action=get_message&mview=1&ID_Message=1256

チェチェン政府声明:
http://groups.msn.com/ChechenWatch/general.msnw?action=get_message&mview=1&ID_Message=1255