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チェチェンニュース Vol.04 No.42 2004.12.26

発行部数:1705部

	INDEX:
	人格のないもの
	次回のチェチェン連絡会議
	近況をつれづれに


■人格のないもの
 2004.12.26 大富亮/チェチェンニュース


 個人的に考えたことを少し。

 9月のベスランの事件の衝撃から、結局、心のある部分が立ち直らないまま
に4ヶ月近くを過ごしていて、いまだにまともな文章を書けない。ニュースも
停滞気味、チェチェンへの平和的支援運動も今ひとつ。あの事件で死亡した
300人のオセチアの人々のことが世界を駆け巡ったのと同じように、チェ
チェンで死んでいった10万人の人々について報道されていれば、その犠牲者
がいまの20万人にまで膨れ上がったりはしなかったろうにと思う。数字の比
較は不毛だが、どうしてもそういうことを考えてしまう。

 最近あらためて見たチェチェンのジャーナリスト、ザーラ・イマーエワの映
像作品、「子どもの物語にあらず」(*1)は、10人ほどの難民の子どもたち
が、チェチェンでの戦争や、逃避行の記憶を語る。そして「もし自分が・・・
だったら」という夢を、幼い瞳を輝かせて語る短いフィルムだ。その一人の少
女が、「ロシア人はなぜ、私たちの家を壊すのかしら、私たちが難民キャンプ
で暮らすのも、気に食わないみたい」と話す。戦争を日本という遠い所から見
ている僕には、もっとわからない。以前は僕のところにも送られてきていた、
麻布台のロシア大使館からのプレスリリース(*2)が、しばらく前から届かなく
なった。ロシア政府の中枢は何を見据えてチェチェンでの戦争をやむをえない
と考えているのか、それを知る手がかりの一つが失われている。

 遺体を実地に数えた人がいるわけではない。チェチェンでその種の調査をす
ることは許されていないからだ。「テロとの戦い」というスローガンのもと
で、民間人の死者が、その地域の住民の20%に及べば、スキャンダルという
のか、破局というのか、どう言えばいいのか適当な日本語を見つけられない。
とにかく、あってはならないことだ。だから、数えてもいけないことになる。
20万人とは、あくまで親ロシア派の高官、ジャブライロフ議会議長や、チェ
チェン独立派の代表者のひとり、ザカーエフ文化相たちが語った見当でしかな
い(*3)。ここで大事なのは、敵対する彼らが同じ認識に達しているということだ。

 ところで、一説によれば、2003年から4年までの間、イラク戦争で失わ
れたイラク人の命は十万人以上になるという(*4)。これはどう考えてもアメリ
カ・イギリスの暴挙の結果で、それを横から拍手して支えている人々の責任も
相当に重い。日本がその一人と言うか、代表選手だ。これもまた、「テロとの
戦い」と呼ばれている。

 チェチェンの域内に住む100万人のうち20万人が犠牲になれば、それは
20%にもあたる。比率上は、もしチェチェンではなく日本が侵略を受けてい
たとしたら、1億2千万人の人口のうち、2400万人が死んでいるに等し
い、大変な事態です。というレトリックは口にすることができるが、むなし
い。イラクの人口2500万のうちの10万人なら、「テロとの戦い」は0.
4パーセントの犠牲で済んでいることになってしまうので、見かけ上、軽微に
思えてしまう。これはやはり、<比率上は>と断るところに粗い論理の継ぎ目
があって、人の命の問題を考える時にはあまりよいやり方ではなさそうだ。

 原点に立ち返ると、不自然に死に至る人々=殺されていく人々が、世界の多
くの場所にいて、そのひとつがチェチェンだということになる。そこに、数を
もとにした優先順位を持ち込むことにはあまり意味がない。今年の春、僕は林
克明とともに、「チェチェンで何が起こっているのか」(*5)という本を刊行し
た。圧倒的な自分の力不足にあえて目をつぶって言うと、これから必要な問い
は、「世界で何が起こっているのか」という、より大きな疑問になるのだろう。

 来年の前半、ロシアのプーチン大統領が日本に来る予定だ。伝え聞く限りで
は領土交渉が行き詰まっていて、日時の決定が延びている。チェチェン問題を
見守る立場からは、この訪日を複雑な心境で迎えずにはいられない。明らかに
チェチェンではゲリラ戦が続いていて、掃討作戦や不当拘束も伝えられてい
る。ロシア政府側が独立派との交渉を拒否しているために、逆にバサーエフ派
などの過激派が勢いづく結果になっている。命を軽視して戦争を続けるロシア
の最高責任者が訪日し、小泉首相とにこやかに握手する。日本も負けてはいな
いということか(*運動面での補足)。

 グロテスクな構図を見たくないという素朴な嫌悪感はあるものの、今起こっ
ている事態を、政治家とはいえ、個人に帰しても何にもならない。たとえば、
1944年にチェチェン・イングーシ人がみな強制移住させられて20万人前
後が犠牲になったときのこと(*6)を、「スターリンによる強制移住」と言うに
は抵抗がある。本当にスターリン個人のせいだったのだろうか。スターリンが
いなくなっても、チェチェンへの弾圧はなくなっていない。

 チェチェンにもどると、なぜチェチェン戦争が必要なのか、なぜプーチン
の、中央集権制にまっしぐらに進もうとする「改革」が必要なのか、というよ
うな問いの立て方がありうるし、それはほとんど研究されていない。実際、今
プーチン政権が進めようとしている知事の任命制や議会の小選挙区制の廃止
(*7)は、少数民族の権利を減らしこそすれ、尊重するようにはならないだろ
う。チェチェンだけではなく、北オセチアの市民たちも今は打ち捨てられてい
る(*8)。この人々も、ロシアの一員ではなく、恣意的な取り扱いを受ける外部
的の存在なのだ。怒りや不信といった感情以前に、そういう「改革」は、とて
も危険だと感じている。少数者の政治的主張を圧殺すれば、その反動は恐ろし
い形で来るはずだから。

 今あるものは、何かにとって必要だから存在する。それが何かを考えようと
するなら、プーチンが来ようが、イワノフが来ようが、あまり大きな問題では
ないと思う。一応、「歓迎しない」ということだけは言いたい。しかし、訪日
が実現するなら、チェチェン問題についての彼らの考えをぜひ聞きたい。戦争
の論理にも、戦争など起こっていないという説明にも、同じくらい関心がある。

 ロシア大使館から届かなくなったプレスリリース。私たちが認めてしまった
イラク戦争。そうではないはずのチェチェン戦争。打ち捨てられるベスランの
人々。頭を混乱させるいろいろなものの底に横たわっている何かを理解するた
めには、醜悪な場面も見ておこうと思う。


	*1: 「子どもの物語にあらず」 	
	http://www.rakuten.co.jp/arekore/573996/675292/
	
	*2: ロシア大使館プレスリリース
	http://chechennews.org/archives/prindex.htm
	
	*3: チェチェン戦争の犠牲者数について
	http://chechennews.org/chn/0440.htm
	
	*4: イラク、民間人の死者「10万人以上」 	
http://www2.asahi.com/special/iraqrecovery/TKY200410290235.html
	
	*5: 「チェチェンで何が起こっているのか」 	
	http://www.koubunken.co.jp/0325/0320.html

	*6: 強制移住について: 	
	http://chechennews.org/basic/whatis.htm#ijyu
	
	*7: ロシアの現状についての分析: 	
	http://chechennews.org/activity/ap20040918.htm
	
	*8: ベスランにて記す(アンナ・ポリトコフスカヤ)
	http://chechennews.org/archives/20041202anna.htm

	*運動面での補足: ここは意見の分かれるところだと思う。運動をするにあ
たって、イラク戦争や、パレスチナ問題や、並行して起こっているさまざまな
状況を、チェチェン問題と<関連させて語らない>ほうがよい、という意見の
人もいるかもしれない。けれど、チェチェンへの平和的支援が、まず多くの人
の納得できる<言論>として育ち、現在の語り手からも独立して広がっていく
必要があると考えると(僕の理解では、日本でできることのうち最も重要なの
はそれ)、日本−ロシア−チェチェンの関係に特化した主張ではなく、普遍的
な主張、言い換えれば、地域横断的な考え方として成り立つものでなければ、
人々に支持されないのではないだろうか。遠い未来を考えて、ダブルスタン
ダードに陥らない考え方を探っていきたい。広い範囲の人々と。


■次回のチェチェン連絡会議

 毎月定例のチェチェン連絡会議では、チェチェン問題に関心を持つ団体・個
人が、情報交換と、今後の運動の展開について相談しています。次回予定は来
年1月5日(水)の午後7時より都内にて。参加希望の方はチェチェンニュー
スへご連絡ください。チェチェンについての運動に関心のある方、ボランティ
アしてみたい方はぜひ。


■近況をつれづれに

 アルバイト先で、有給休暇を獲得するための、ささやかなタタカイを
開始しました。4年間もいるので、そのくらいは要求してみても、よいのでは
ないかと。いろいろなことを同時にやるもので。

 貧弱なチェチェンニュースに、今年も大勢の方が物心両面で支援してくださ
いました。この場を借りてお礼申し上げます。カンパをしながらも住所を知ら
せないという粋な方も。メールでお知らせいただければ、(忘れた頃に)
ニュースレターのようなものをお送りしますので、ご連絡ください。

 それでは、

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