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チェチェンニュース Vol.05 No.10 2005.04.22

発行部数:1706部

マスハドフ大統領の遺体返還・家族の解放を求める公開書簡

駐日ロシア連邦大使館
特命全権大使 アレクサンドル・プロホロヴィッチ・ロシュコフ殿

 拝啓

 大使、この手紙をお読みくださることに、感謝します。

 私は、1999年に第二次のチェチェン戦争が始まったときより、この問題を知り、戦争に反対する立場から、可能な限りの情報を伝えてきた者のひとりです。今日、大使にいくつかの要望をしたく、手紙を差し上げます。

 報道によれば、さる3月8日、チェチェン共和国イチケリアのアスラン・マスハドフ大統領が、ロシア連邦保安局部隊によって包囲され、殺害されました。

 マスハドフ大統領は、1996年に、第一次のチェチェン戦争を終わらせることになった「ハサブユルト合意」(*1)の交渉を担ったチェチェン側の第一の功労者であり、また、戦争後には、ロシア連邦との間に「平和と相互関係に関する条約」(*2)を結ぶイニシアチブをとり、1999年の軍事侵攻によってその内容が反故にされた後にも、ロシア政府との交渉を絶えず提案してきた人物です。

 今年1月以来、マスハドフ大統領がチェチェン側部隊に一方的停戦を命令し、武力行使を止めた時、世界中の人々は、今度こそロシア政府が提案を受け入れるのではないかという、期待をもって見守りました。

 その答えがマスハドフ大統領の殺害だったことを、私は翌日の夜明け前に、ラジオのニュースで知りました。その時の驚き、そして憤りは、今でも私の中に響いて止みません。

 大使、お尋ねします。ロシア政府が、マスハドフ大統領のような穏健派の抹殺を、戦争終結への道だと考えた、その根拠を聞かせてください。この10年間の戦争で、すでに20万人から25万人もの人命が、チェチェンで失われています。実に、チェチェンの人口の4人に1人が、ロシア軍の砲火と爆撃、そして組織的な掃討作戦によって殺害されつづけているのです。これほど多くの人々が「テロリスト」だなどと考えることは、私には、到底できません。

 また、ロシア軍とロシア市民の犠牲は、比率の上でずっと少ないものではあっても、この戦争が続く限り、延々と増えつづけることでしょう。チェチェン戦争を発端として、民主主義は失われ、軍部・治安機関の権限の強化と同時に、その腐敗は深まっています。ロシア社会は、チェチェンを滅亡させながら、自らも滅亡に向かおうとしているのではありませんか。

 私は、あなたと連邦政府に要求します。いまだにロシア司法当局が保持しているアスラン・マスハドフ大統領の遺体を、ただちにチェチェンに運び、遺族に返還してください。チェチェンについて調べたことのある人ならば誰もが知ることですが、チェチェンの人々が肉親の遺体を大切にし、遺族たちの手で埋葬することを何より大切にしていること、その思いの深さは、私たちには計り知れないものがあります。

 また、昨年拘束され、現在もいずこかに拘束されているマスハドフ大統領の家族たちを、ただちに解放してください。私たちのもとには、同大統領の兄弟姉妹であるブチュ・アリエヴィナ・アブドゥルカディロヴァさん(67歳)、レチャ・アリエヴィッチ・マスハドフさん(68歳)とレマ・アリエヴィッチ・マスハドフさん(55歳)、甥であるイフヴァン・ヴァハエヴィッチ・マゴメドフさん(35歳)、遠縁にあたるアダム・アブドゥル‐カリモヴィッチ・ラシエフさん(54歳)、姪であるハディジャト・ヴァハエヴィナ・サトゥエヴァさん(40歳)とその夫ウスマン・ラムザノヴィッチ・サトゥエフさん(47歳)、義弟であるモフラディ・アブドゥルカディロフさん(35歳)が、それぞれ拘束されたという情報(*3)があり、いまだに解放の報せに接していません。このような恣意的拘禁は、ロシア連邦法と、国際法によって禁止されています。

 昨年10月に、ウスチノフ検事総長は、「テロリストの家族に対する逆誘拐は、テロとの戦いの一部だ」と、議会で発言したとのことです。このような無法を、ロシア司法の最高位の人物が認める現状には、背筋が凍る思いです。

 マスハドフ大統領の遺体が返還されなければ、チェチェンの人々の心に、今よりもさらに大きな遺恨を植え付けることでしょう。そして、この事実はロシア・チェチェンの紛争史に強調して記され、はるかな将来にわたって、両国の人々の和解を阻む要因になることは、明らかです。

 大使、心から忠告します。チェチェンへの攻撃と、マスハドフ大統領の殺害をめぐって、世界がロシア政府への批判を止めることはないでしょう。しかし今、その遺体を遺族に返還するならば、世界はこの行為を、歴史への洞察に裏打ちされた決断と理解するに違いありません。

 長い歴史を持つ大国、ロシアの代表者のひとりであるあなたに、以上の事柄を訴えます。かならず、ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領にも、日本社会から、この意見があったことを、申し伝えてください。

 私たちは、チェチェンの惨禍から、ロシアの軍事侵攻によって引き起こされたこの破局から、けっして目を離しません。

敬具

2005年4月22日 大富亮/チェチェンニュース発行人

*1 ハサブユルト合意:http://chechennews.org/archives/khasaviurt.htm
*2 ロシア連邦とイチケリア・チェチェン共和国の平和と相互関係に関する条約:http://chechennews.org/archives/peacetreaty.htm
*3 マスハドフの家族、誘拐される:http://chechennews.org/chn/0502.htm


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