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チェチェンニュース Vol.06 No.02 2006.01.20

発行部数:1586部

チェチェン総合情報:http://chechennews.org/
バイナフ自由通信:http://d.hatena.ne.jp/ootomi/


■BSドキュメンタリー「チェチェン紛争 市民の証言」を見る

(大富亮/チェチェンニュース)

 NHK−BS1で放送されたBSドキュメンタリー「チェチェン紛争 市民の証言」(1月14日)を見た。

 どんな番組が放送されるのだろうと、期待半分、心配半分でいたのだが、それほどひどい出来ではなかったと思う。番組はチェチェン人、ロシア人に取材し、主にそれらの証言から、チェチェンでの人権問題を指摘した作品だった。いくつかの証言を拾ってみた。

 チェチェンの人権活動家、カラーエワさんは、グロズヌイ市街のあるアパートを訪ねる。ここにいる男性の妻は、ロシアが「軍事作戦は終了した」と宣言した後の2000年11月になって、買い物に出かけたまま、行方不明になった。

 男性は小さな薄暗いアパートで、ベッドに腰掛けて語る。

 「近所の人から、妻がロシア軍に拘束され、連行されたと聞きました。妻の遺体が発見されたのは4ヶ月後のことです。地下室で殺されていたんです。妻は性的暴行を受けていました、そして殺されたのです。妻は妊娠9ヶ月でした。そんな女性を暴行したのです」

 妻が殺害された状況を調べていた夫は、これ以上調べるのはやめろと、何者かに暴行を受け、脅されたと言う。訪問した帰りに、カラーエワさんはこう言う。「彼が別れ際に言っていました。<不安で眠れない>と。どこで誰に何をされるかわからないからです。そうした恐怖感があるから、証言する人は少ないのです」と。

 コーカ・エリヴィーエワさん(63)の長男、ハムザさんは、2002年3月、行方不明になった。

 「息子を探すために弁護士を雇い、さまざまな官庁を訪ねました。地元の警察をはじめ検察や軍にも問い合わせました。北コーカサス地方一帯を探し回りました。しかしどこに行っても手がかりはまったくつかめません。息子は煙のように消えてしまったのです。誰に訴えたらいいのか、それすら私達にはわからないのです。皆さんの助けが必要なのです」

 ロシアの特殊部隊「アルファ」の元副司令官、セルゲイ・ゴンチャロフも証言する。

 「チェチェンの武装勢力はテロを行っているのです。一般市民の中にテロリストは逃げ込んでいます。テロリストを見つけるには掃討作戦が必要なのです。その際一般市民が巻き込まれることもあるでしょう。人権被害もあるかもしれません。しかしあくまで戦闘の中での出来事なのです」

 たたみかけるように彼は言う。「戦争には略奪がつきものです。掃討作戦の中では違法行為もあるでしょう。一般市民を拘束して金銭を要求する者もいると聞いています」

 ロシアの軍関係者自身が言うのだから、きっと確かなのだろう。そういう事態に対して、ロシア側の当局者が3人もそろって番組の中で「規律に反する者には厳罰を科している」と言うのだが、彼らは、ひとつも具体的な処置を示そうとしない。

 2004年の1年間で、1700人もの人々がロシア軍に拘束され、姿を消したと、国際人権団体は主張している。この11年間の戦争で死んだ人々の数は20万人から25万人にものぼる。小さな、わずか100万人のチェチェンの中で。

 チェチェンのことをあまり知らない人が、この番組を見たら、こんな印象をもつのではないだろうか。ロシア軍は、チェチェンで相当、ひどいことをしている(それは、役人の答弁でしかないロシア当局者の言葉と対置される、チェチェンの女性達の切迫した表情や、若い兵士の言葉から感じられるはず)。

 それから、「チェチェン武装勢力」というものがなんだか、よく分からない(紛争の経過や、歴史的な背景はほとんど省略しているので、抵抗運動の存在すら、感じ取れないから)。

 マスハドフという人物がいたことは、すっぽりと描き落とされている。民主的に選挙され、ロシアに対して和平を訴えつづけ、最後にロシア軍特殊部隊に暗殺されたマスハドフという人物をぬきに、チェチェン戦争を語ることはできないと思うのだが。

 権力を持つ人びとの空虚な言葉より、ずっと胸を打つのは、ロシア兵としてチェチェンに行き、実際に掃討作戦に参加したときの経験を、しぼり出すように語る(多分20代の)若者の言葉だ。

 「掃討作戦とは・・・せん滅が目的です。本来は敵を捕虜にした場合、国際的なルールに従わねばなりません。しかし、われわれは皆殺しにしてしまう」

 子どもや女性を殺したことは?

 「あまり話したくありません。・・・そういうことになった時もありました。殺さなければ、自分がやられる。選択の余地がないことも、あるでしょう。絶対に生きて帰ると約束したから。何のための戦争なのか、僕には分からない」

 ところで、もともとこの番組は、「女たちのチェチェン」というテーマで、苛酷な状況で生き抜いている女性たちの過去と現在を取材したものだったという。ぜひ、そのバージョンを見てみたい。きっと新しい発見があると思う。


番組の情報: http://chechennews.org/event/old.htm#20060114
アスラン・マスハドフ: http://chechennews.org/basic/biograph.htm#Maskhadov


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