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恐るべきルポルタージュである。この労作を読んだあとでは、自分をジャーナリストなどと名乗るのが恥ずかしい。
ロシアからの独立を求めてチェチェンのイスラム過激派がテロをエスカレートさせている、だからこの戦争は「対テロ戦争」だ――。というのがロシア政府の主張であり日本国内の報道の主流だ。
そのチェチェンにロシア人女性記者の著者が何度も入り、名もなき人々の声をすくい上げた。本書は後半で、複雑に利害が絡む戦争の背景に迫っているが、この本の生命は、戦犠牲者の立場に立った前半のルポにある。
そこから見えてくる戦争は、ロシア軍による住民への略奪・強姦・拉致・人身売買であり、反テロ戦争などでなく、ロシア軍による「対市民戦争」だということだ。続発するテロの根源が詳細に書かれているのである。
武装勢力を家に泊めた容疑で電気拷問にかけられたおばあさん。糞尿入りのバケツを口にくわえて四つんばいで階段を上り下りさせられた若い女性。深夜二時に民家に乱入したロシア兵は、六十二歳の女性に五発の弾丸を打ち込んだ。
ロシア軍は「掃討作戦」と称して 住民を大量逮捕し、釈放条件として身代金を要求する。交流中に殺した場合は遺体引き渡し料を出せと言う。軍人には「罪と罰」という観念がないのだろうか。
このような事実を明らかにするジャーナリストたちに対し、「我々の敵はテロリストでなく、ジャーナリストだ」とプーチン大統領が発言した。
これまで筆者は何度も現地取材しているが、時がたつにつれて取材妨害と言論弾圧は厳しくなっているのを痛感する。
このような状況下での筆者の勇気と行動は驚異的であり、まだ生きているのが不思議なくらいだ。
実際、北オセチアで人質をとったテロ現場に向かう機内で、著者は毒物入りの紅茶を飲まされて一時重態となった。
ロシア人である彼女は、祖国ロシアの腐敗とファシズム化の渦中にあって絶望を深めていく。それでも彼女は言う。「(戦争が)すべての不必要なことから私をはじき出して、余計なことを切り離してくれた。こういう運命に感謝しなきゃいけないわ」。
絶望的ながら捨て身の覚悟だ。本物のインテリによる真実の本である。
(共同通信社配信記事を一部改稿)
林克明(はやし・まさあき)/ジャーナリスト
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