チェチェン総合情報
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立ち上がる女たち

2004.10.05 ふぇみんに掲載/ 文と写真=林克明

(トラックの上で戦争に抗議する女性)

 チェチェンといえばテロという図式が定着している。確かに9月1日に起きた北オセチアの学校占拠事件は、まれに見る凶悪なテロだ。誰もが「なぜ、あんなひどいことをするのか」という素朴な疑問を抱くことだろう。

 しかし、テロには必ず原因があり、テロをなくすためには、その原因を取り除かなければならない。ロシア・チェチェンの関係では、ロシアによるチェチェン人への大規模な国家テロが根源にある。国家が行なう行為をテロと言わないだけである。

 もし仮に、岩手県くらいの範囲内で、北オセチアで起きたようなテロが10年間に400回も500回も発生したら、そしてあなたがそこに住んでいるとしたら、どう感じるだろうか。実は、この間のチェチェンの現状は、この表現が適切なのである。

 チェチェンはロシアの植民地である。ロシア帝国は16世紀から侵攻を開始し、チェチェン人の半分が犠牲になったのちの1861年に武力併合された。それでも住民は抵抗を止めず、そのたびに弾圧されてきたのである。とくに第二次大戦末期の1944年には、ナチス・ドイツに協力したうたがいでチェチェンの全民族が貨車に載せられて中央アジアに強制移住させられ、およそ6割の人々が死亡した。

 ソ連が崩壊する直前にチェチェンは独立宣言をしたが、それを潰すために1994年、ロシアが軍事侵攻。戦前の人口100万人に対して、20万〜25万人が犠牲になったといわれるほどだ。「民族絶滅」状態といっても決して大げさではない。

ロシアの強制収容所

 特に問題になっているのは、ロシアの占領軍が住民を逮捕し、つぎつぎに強制収容所に送っている。しかもロシア軍は、釈放条件として多額の身代金を要求したり、拘留中に拷問死させた場合には遺体引渡し料を家族に要求している。これは例外的な事件ではなく、日常化してしまっている。頻発するテロの根源には、このような「対テロ戦争」ならぬ「対市民戦争」、もっと明確に言うと、市民に対する国家テロが存在するのだ。 ところが、このような事実が世界で報道されず、たまにチェチェン側が行動を起こすと大々的に伝えられ、単なるテロリスト集団だというイメージが定着しているのだ。

 これは、明らかなロシア当局の情報操作による。自由なジャーナリストの取材を許さず、政府の気に入らない報道をした「ロシア独立テレビ」を特殊部隊が襲撃したり、今度の人質事件では、現場に向かったロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ記者に飛行機内で毒を盛るなどの「テロ」まで加えているのである。幸い一命は取りとめた。

ロシア占領下で活動するチェチェン女性

 そうなると、誰も真実を伝えられなくなる。そこで、チェチェンの女性たちが立ち上がっている。「自分たち自身で伝えなければ誰もチェチェンの惨状を報道してくれない」と、主婦や学生などが、コンパクトカメラや家庭用ビデオを使ってジャーナリストとして活躍しているのだ。

 チェチェンでは、男性は生活と家族を外的から守ることに全責任を負わされる。女性たちは家庭内を守る。こうした社会で女性がジャーナリストや人権活動家になって社会の一線に出る。戦争が女性たちの行動を変えたともいえるだろう。ほとんどの人は合法的な闘いをしているが、ロシア占領軍と秘密警察の追及は厳しく、その活動も不可能になりつつある。こうした状況で、家族を残虐に殺された女性が戦闘に参加する例もある。02年の劇場占拠事件では、占拠グループの半分近くは女性だった。両親を殺された16歳の少女、生後一ヶ月の赤ん坊を残して参加した人もいる。ここまで追い詰められているのだ。

 関係ない人を巻き込むテロは認められないし「報復の連鎖をやめよう」と主張することは簡単だ。しかし、テロを誘発する根源がロシアの国家テロ=虐殺を止めさせなければ、永久に悲劇はなくならない。


著作者の許諾の下に再掲

林克明(はやし・まさあき)/ジャーナリスト
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